2018年8月30日木曜日

 彫刻家の友人に、自分が音読した本の音源を送ることになった。人に聞かれることを想定せずに作ったものだからなんだかおかしな気分になる。だけど、彼女がそれを聞いていると思うとなぜか心は落ち着く。

 世界は奇妙な形でつながっている。彼女と私の生き方はある意味で正反対だと私は思う。彼女の飼っている白い猫を見た時に、彼女に似ているので私は笑ってしまった。彼女の猫はあまりにも無防備で、捕まえられても大した抵抗も示さない。身を完全にゆだねて、ごろごろと音を奏でるか、あるいはふと思い出したように不快そうに鳴き声をあげるくらいしかしない。

 私の猫はといえば、警戒心の塊で、工事のために家に見知らぬ男性たちが入ってきた時、すぐに隠れて不安げに影からその様子を見つめていた。「私の世界を壊さないで」というように。彼女は捨て猫だったから、きっと小さい頃に傷ついた記憶が彼女を臆病にしてしまったのだろうと私は思ってた。だけど考えてみれば、彼女は私にそっくりだ。「私の世界を壊さないで」は私がいつも心の中で唱えている呪文でもある。

 離れたところでまったく正反対の暮らしをしている二人の女性がまさか同じ本の朗読をブルートゥースのイアホンで聞いているなんて誰も知らない。その時私の頭の中では、アインシュタインが嫌ったあるパラドックスのことが浮かぶ。EPRパラドックスは、アインシュタインが量子力学を「信じない」ことを証明するために考えたパラドックスであった。だけど彼の意思とは逆に、量子力学はそのパラドックスが現実に起きることを明かしてしまった。私はアインシュタインが大好きだけど、パラドックスを世界から排除したいとは思わない。むしろ、パラドックスが好きだから、それすらも法則として打ち出す科学を好きになったのだと思う。さて、寝よう。

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